多くの関係者が参加する大規模なオウンドメディアの運営では、企画・制作プロセスによって、進捗の確認やコスト管理、品質保持に問題がしばしば発生します。今回は、状況の把握が難しいワークフローを、CMSの導入によって整理・改善に成功した事例を紹介します。
ある製薬会社様が運営するオウンドメディアでは、13社の外部パートナーとの連携による制作管理の課題に直面していました。ワークフローの見直しにより、運営の効率化が図られ、結果として記事の品質向上と更新頻度の増加など、多くの改善が見られました。

プロジェクト概要


業種

製薬

規模

1万ページ

期間

約1年半

POINT

課題


課題


13社の外部パートナーとのコミュニケーションが不透明で非効率的


プロセス全体を把握できる仕組みがなく、進行状況が分かりづらい


運用コストの適切性の評価が困難で、コスト最適化の議論が停滞

提案


提案


CMSを利用して情報管理とワークフローを一元化し、全プロセスをオンライン上で管理


制作と運用会社の役割明確化によるコミュニケーションの改善と効率化


手作業に頼っていた作業からCMSを介した自動化に切り替え、業務を効率化

成果


成果


問題発生時の遅延が減少し、外注費用の管理が容易に


制作状況の把握により、パートナーへの支払いサイクルを明確化


CMSと業務システムとの連携により、ビジネスの効率を高める環境を実現

背景/課題

プレイヤーが多く運営実態が把握できなかったオウンドメディア

オウンドメディアは認知、ブランディング、集客に寄与し、専門知識を通じて信頼度を高める効果があります。今回のケースである製薬会社様のオウンドメディアでは、医療関係者を主なユーザーとし、医療に関する最新情報やセミナーなどのコンテンツを提供しています。その目的は、製薬会社様の取り組みを医療関係者に知らせ、その会社が提供する医薬品の処方を促すことにあります。
オウンドメディアのユーザーである医療関係者は、サイトにアカウント登録しています。そしてサイト側はユーザーの同意のもと閲覧履歴などの収集を行い、医療関係者に製品を提案するMR(医薬情報担当)の活動に役立てています。閲覧情報に基づいて、MRからユーザーの興味関心に沿った提案を行っているのです。

このオウンドメディアは、2017年ごろにご相談をいただいた当時、すでに10年以上運営されていて、ページ数も1万以上ある大規模なものでしたが、複雑な体制に起因して多くの課題を抱えていました。運用体制としては、13社に及ぶ多数の外注先が記事の制作に関与し、これらの外注先をまとめるために運用管理会社が存在していました。外注先が納品したコンテンツは運用管理会社によってチェックされた後、クライアントである製薬会社様へと進み、最終的に公開されるというプロセスでした。しかし、このフローでは時間と費用の両面で中間コストがかかり、決して効率が良いとはいえませんでした。

制作におけるコミュニケーション手段は電話とEメールが中心で、扱われる文書の管理は個々の担当者に依存する形でした。このため製薬会社様ではサイト運営の実態を正確に把握できず、運用管理会社からの請求に対してもその費用の妥当性を判断することが難しい状況でした。これでは、業務や費用対効果の改善も困難です。

製薬会社様では、オウンドメディア運用の透明化と効率向上を強く求めていました。そこでキノトロープは、サイト全体を一目で見渡すことのできるCMSを導入し、これを中心にワークフローを改善するという解決策を提案しました。

プレイヤーが多く運営実態が把握できなかったオウンドメディア

プロジェクトのポイントや工夫

関係者みんなをハッピーにする、CMSを中心としたコンテンツ管理

サイトリニューアルの行程は、調査、企画、要件定義に6か月、サイト設計、デザイン、HTMLコーディングに3か月、システム設計とシステム開発に6か月、最後にデータ移行とテストに4か月と、あわせて1年半ほどの期間を要しました。

プロジェクトの初期段階では、運用体制とワークフローの問題点を明らかにするため、更新の頻度やプロセスの流れを要件定義の際に詳細に検討しました。その結果、サイト更新時の手順の複雑さや、手作業によるディレクトリ作成と権限設定など、従来の運用方法の非効率性が浮き彫りになりました。これを解決するため、情報管理とワークフローの効率化にCMSの活用を決定しました。CMSを中心にしたワークフローにより、サイトに掲載するコンテンツがどのようにして最終的なアウトプットに至るかを一元管理し、非効率な手作業も抑制できます。

今回のケースでは、前述のとおり13社の外注先が関与し、それらを取りまとめる運用管理会社が存在していたため、関係者との信頼関係の構築が不可欠でした。運用管理会社は長年の経験と各制作会社との良好な関係があり、運用は引き続きその会社が担当することになっていました。これまでのやり方を変えたくないという意見も見られましたが、キノトロープは常に「関係者みんながハッピーになる」という前向きな姿勢を保ち、一社ずつ協力を求めていきました。調査の段階では、各社の要望を聞きながらも部分最適でない全体的な最適化を探求していったため、何度もミーティングを重ねることになりました。

CMSの導入により、全体の管理とコミュニケーションがどう変わったでしょうか。今回のワークフローの起点はまず、コンテンツの企画ができた時点でその概要や公開期日をCMSに入力するところから始まります。運用管理会社や制作担当者とのやりとりもこのCMSで行われます。従来はメールや電話でファイルをやりとりしていましたが、運用会社や製作会社がCMSのステータスを基に連携していくようになりました。また、コンテンツ更新の履歴も残るため、Eメールを遡って内容を確認するといった煩雑さもなくなりました。CMSでは、個々のコンテンツの状況だけでなく、全体の進行スケジュールも一覧表示できるようになりました。

状況の見える化とワークフローの効率化を実現

製薬会社様側が行う、コンテンツ内容の承認もスムーズになりました。コンテンツを作成した人がCMS上から承認担当者に承認依頼を出せるようになっています。承認者はCMSの画面からプレビューを開き、問題がなければそのまま公開できます。

成果

状況の可視化でコンテンツの質と量がアップ。社内システムとの連携でさらなる効率化を追求

CMSを中心としたワークフロー改善によって、パートナー各社との関係も良好にあり、効率的なコミュニケーションが保たれています。その結果、さまざまな運用上の問題や障害復旧時の遅延が大幅に減少しました。進捗管理が効率化された副次的な効果として、請求のタイミングも明らかになったことが挙げられます。経理処理もスムーズになりました。

運用費の妥当性が明らかになったことによって、制作する記事の本数が増え、サイトの充実化への取り組みが進められました。より多くの情報を提供できるメディアを目指し、パートナー各社への依頼を減らすようなコスト抑制ではなく、記事の充実を図ったという状況です。

状況の可視化でコンテンツの質と量がアップ

運用の効率化はさらに進んでおり、CMSをハブとしながら業務システムとの連携プロジェクトも別途始まりました。例えば、医療関係者に送るメールマガジンは外部の制作会社が手作業で制作していましたが、これもCMSでテンプレートや内容を管理できるようにし、外部の配信システムと接続して配信できるようになっています。配信リストは基幹システムの顧客リストをもとに生成されています。また、MRの方が医療関係者に提供する資料もオンラインで発注が可能になっています。このように、Webサイトで掲載するコンテンツや対外的に発信する全てのコンテンツをCMSで一元管理し、さまざまなシステムと連携して対応していく仕組みを作れることが、キノトロープの特徴でもあります。

メッセージ

オウンドメディア運用の効率化は、運用実態の可視化から

サイト運用は、全体的な進捗状況の管理が重要です。全体を俯瞰できてはじめて、Webサイトの訪問者に対して、適切な情報を提供することが可能になります。まずはお客様に何を提供するかを明確に定義し、現在の状況を把握した上で、合理的な手段を選択していきます。キノトロープでは、これらの点に基づいたオウンドメディアのワークフロー改善のアドバイスをご提供します。

お客様はもちろん、パートナー企業との良好な関係構築も、私たちが大切にしていることです。プロジェクトを推進するにあたり、関係者各位との信頼関係構築は、目指すゴールへの大切なステップとなります。ただ要件を定義し、実装するだけでなく、一緒にメディアを育てていくチームづくりが重要です。

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